オトニッチ

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【書評・感想】ピエール中野の『#キリトリ線』を読んでも悩みは解決しないかもしれないけども

「学び」を求めない方がいい

 

この本を読んでも自身の悩みが解決するわけではないかもしれない。新しい価値観や今まで知らなかった情報が手に入るわけでもないと思う。勉強になるような学べることも書いていない。

 

『#キリトリ線〜少しだけ行きやすくなるための思考の整理〜』というタイトルの本。

 

著者は凛として時雨のドラマーでもあるピエール中野。Instagramのストーリーズで質問スタンプを使ってファンの質問に答えた内容をまとめた本だ。

 

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人生をやり直したいと思ったことはありますか?

 

実は今がやり直してる人生だと思って

行動していくと、やるべきことがぼやけなくて済むよ 

 

本の帯にはこのように書いてある。自己啓発本かと思う帯。スピリチュアルな雰囲気すら感じる文。

 

しかし、本の内容は全く違う。

 

自己啓発本でもないしスピリチャルな内容でもない。何かを学ぼうと思って気合いを入れて読むと肩透かしを食う。

 

質問に対しての回答は正論が多い。当たり前のことに感じる回答だらけ。というか、質問も「そんなことを質問するの?」という中身の薄い内容もある。

 

自己啓発本だと思って読んだ人はがっかりするかもしれない。それでも自分はこの本に魅力を感じる。普通の回答にも中身の薄い質問も含めて。

 

むしろ、そういった部分が『#キリトリ線』の魅力だと思う。

 

 どうでもいい質問に答えるピエール中野

 

「自分でググれよ」と言いたくなる。「自分で考えればわかるだろ」と思う。

 

そんな質問もあるのに、ついつい読んでしまう。それに対してピエール中野は真面目に質問者に回答を返している。

 

8時間睡眠を確保するコツはなんですか?

やる気の出し方を教えてください

ディズニーシーでおすすめの乗り物はありますか?

どうしてバンドマンはエロいんですか?

 

このような質問も多い。正直、当事者以外にはどうでもいいと思ってしまう質問でもある。でも、読んでしまう。こんな質問ばかりなのに読み進めてしまう。

 

本屋に行けば睡眠の質を上げる方法について書かれた本は売っている。ディズニーシーのおすすめの乗り物はググれば綺麗にまとめているサイトが見つかる。バンドマンがエロいかは聞く必要はない。

 

こんな質問にもピエール中野は答えている。普通の内容を普通に返している。そして読者は知らない一般人とピエール中野のやりとりを、なんとなく読んでいる。

 

重い質問に答えるピエール中野

 

ふりんつらい

両親が喧嘩して離婚危機です。娘にできることは?

家族のことが嫌いで、家族と思いたくありません。いけないことですか?

パワハラ半端ない職場とはどう立ち向かえばいいですか?

 

簡単に答えることができないような、重い内容の質問もある。無責任に答えることができない、回答の内容にっては人生が左右されるような質問。

 

ピエール中野はしっかりと答えている。真面目に。真摯に。

 

きっと家族や友人にも相談できないような内容。直接関わりのないピエール中野への匿名での質問だから相談できたのかもしれない。

 

回答の内容が重要なのではなく、質問できる環境が求められていて、それに救われている人がいる。

 

重い質問内容に対しては一般的に正論とされるであろう回答が多い。重くて難しい質問だ。そのため直接の解決に至るかはわからない回答をしている。

 

しかし、質問をした人は少しは救われたのではと思う。ピエール中野は言葉を選びつつ、冷静に相手のことを考えて答えているからだ。一言や二言の回答。それでも、そこには相手への思いやりがあるように感じる。

 

ピエール中野の回答は質問者が誰なのかわからない。それでも読んでいて、この人が少しでも幸せになれたらと願ってしまう。

 

個人的な質問に答えるピエール中野

 

質問者は自身の悩みを相談するだけではない。ピエール中野の個人的なことも質問している。  それに対してもピエール中野はしっかりと答える。

 

使ってるシャンプーとリンス教えてください

2018年一番嬉しかったことは?

どのくらいの頻度で歯医者に行きますか?

椎名林檎さんで好きな曲は?

サンリオで好きなキャラはなんですか?

ご自分の好きなところはどこですか?

 

 ・・・・・・。

 

本当にピエール中野が使っているシャンプーとリンスが何かを知りたいのか・・・・・?

 

 

これは会話の本

 

読み進めていくと気づく。

 

新しい発見を見つけたり、学べる内容はなくとも、意味がある本だと。大切なことが書いてある本だと。

 

『#キリトリ線』はピエール中野が顔も名前もわからない匿名の誰かと1回言葉のキャッチボールをするだけの内容。

 

しかし、それによって救われている人がいる。質問をした人が求めていることは、自分の悩みを1発で解決する答えではないと思う。

 

話を聞いてもらいたいのだと思う。何か自分の悩みを解決するための1歩を踏み出すきっかけが欲しいのだと思う。使っているシャンプーを知りたがってる人は知らんけど。

 

何かに救いを求めている人は多いと思う。きっと誰かに助けてもらいたいと思っている人もいる。

 

でも、家族や友人にも話せないことがある。相談できる相手が身近にいない人もいる。

 

ピエール中野は誰でも受け入れて質問に答える。自分の身分を明かさずに質問をした相手に対しても。

 

一部本から回答も含めて引用して記載する。もしも駄目ならピエール中野さん、駄目だと言ってください。修正するので。エゴサしてこの文章も読んでるでしょ?

 

質問:相談する相手がいないときは?

 

回答:ピエール中野がいるよ。

 

この質問に対する、この答え。

 

これがほぼ全ての質問者が求めている回答なのかもしれない。これがピエール中野が質問に答える理由でもあり、ファンが質問する理由だ。使っているシャンプーとリンスを知りたがってる人は知らんけど。

 

悩みを一発で解決はしてくれないかもしれない。そもそも、悩みを解決するには自分自身で考えなければならない。他人から解決のヒントはもらえたとしても。

 

音楽を聴いていて「救われた」「助けられた」と感じることがある。

 

しかし、音楽は自分の悩みを解決する答えを教えてくれるわけではない。1歩踏み出す勇気や、考えるきっかけをくれる。

 

『#キリトリ線』も同じだと思った。

 

この本は温かい。優しさを感じる。想いがつまっていると思う。

 

だから読み進めてしまうし、読み終えた後、自分も少しだけ救われた気持ちになって元気になる。質問をしている当事者でもないのに。

 

人生をやり直したいと思ったことはありますか?

 

実は今がやり直してる人生だと思って

行動していくと、やるべきことがぼやけなくて済むよ 

 

本の帯に書いてあるこの言葉。全てのピエール中野の回答の本質がこの文章に込められているのではと感じる。

 

『#キリトリ線』は学びを求める本ではなく、ほんの少しの勇気や元気をもらうための本だ。そして、それによって行動を起こすきっかけをくれる本だ。

 

ピエール中野に質問することで多くの人が救われたのだと思う。そして、この本を読んだ人も少しだけ元気をもらえると思う。

 

使っているシャンプーとリンスを知りたがっている人は知らんけど。

 

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