オトニッチ

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「尾崎世界観の日 特別編」の特殊な視点からのライブレポート

弾き語りのワンマン

 

バンドのライブでは滅多にやらない曲もやってくれた。定番曲も違った解釈で聴かせてくれた。自分にとって大切な曲も演奏してくれた。

 

日比谷野外音楽堂で行われた『尾崎世界観の日 特別編』。

 

途中でゲストが参加したものの、基本的には尾崎世界観のワンマンライブ。全編ギターでの弾き語り。

 

歌われた曲はクリープハイプの楽曲が多かった。弾き語りで演奏がシンプルになることで、メロディの良さが際立つ。歌詞の内容もいつも以上に胸に響く。

 

自分がクリープハイプで特に好きな部分はメロディと歌詞だ。それを長時間堪能できるワンマンライブ。

 

まるで自分のために開催してくれたようなコンセプトのライブ。

 

 

自分の期待していた要素が詰まったライブ。「尾崎世界観の日 特別編」というライブタイトルがついていた。しかし、「むらたかもめの日 特別編」と呼びたいぐらい自分のためにやってくれたと思えるような内容のライブ。

 

これは尾崎世界観がむらたかもめのためにやってくれた「むらたかもめの日 特別編」だ。反論は全て無視します。

 

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むらたかもめの日である理由①

 

 自分がクリープハイプを知ったきっかけはYouTubeでの動画だ。

 

尾崎世界観が路上で弾き語りをしている動画。「ヒッカキキズ」という曲の弾き語り動画。バンドの音源の前に尾崎世界観の弾き語りを最初に聴いた。

 

 

 メロディ、歌詞、歌声に強く惹かれた。それから調べてクリープハイプの存在を知った。「ヒッカキキズ」は自分とクリープハイプとの出会いの曲でもあり、特に好きな曲の1曲になった。

 

しかし、スタジオ録音の音源は現在販売されているCDには収録されていない。廃盤になったミニアルバムの収録曲。ライブで演奏されることも少ない。

 

この曲をこの日は歌ってくれた。自分が尾崎世界観やクリープハイプを知った時と同じ、弾き語りで演奏してくれた。思い入れの強い曲を最高の演奏で聴かせてくれる。

 

これは尾崎世界観が自分のために演奏してくれたに違いない。これは「尾崎世界観の日 特別編」ではなく「むらたかもめの日 特別編」だ。

 

 

むらたかもめの日である理由②

 

シークレットゲストも登場する特別なライブ。ゲストは尾崎世界観とともに歌った。ゲストはコレサワとMy Hair is Badの椎木知仁。どちらも自分が好きなミュージシャン。

 

これは自分のために呼んでくれたのだろう。まさに「むらたかもめの日 特別編」。

 

笑えよ乙女

笑えよ乙女

  • コレサワ
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 コレサワは自身の楽曲である「笑えよ乙女」を弾き語りで歌った。自分がコレサワの楽曲で最も好きな曲。夕暮れ時の野外に響く伸びやかな歌声とギターのアルペジオが心地よい。

 

最高のシチュエーションで聴く最高の演奏。しかも自分の好きな曲。まさに「むらたかもめの日 特別編」。

 

燃えるごみの日

燃えるごみの日

  • クリープハイプ
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

尾崎世界観とコレサワがデュエットでクリープハイプの「燃えるごみの日」を歌った。この2人で歌うために新しいアレンジがされた演奏。コレサワのハモりが素晴らしい。尾崎世界観と歌声の相性も良い。間奏でコレサワは鍵盤ハーモニカを吹く。尾崎世界観は丁寧にギターを奏でる。

 

クリープハイプの演奏とは違うアコースティックの優しさを感じる演奏。楽曲に新しい魅力を加えてくれた。心地よくなる自分。これぞ「むらたかもめの日 特別編」。

 

週刊誌

週刊誌

  • クリープハイプ
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

椎木知仁の演奏も素晴らしかった。椎木は弾き語りでクリープハイプの「週刊誌」をカバーした。シングルのカップリング曲でマニアックな楽曲。元々はクリープハイプのファンで10年ほど前はクリープハイプのおっかけをやっていた椎木。ほぼ全てのライブに通っていたらしい。熱心なファンだからこそ選ぶような楽曲。

 

「週刊誌」は音源では激しいバンドサウンドが魅力的。そのためアコースティックで歌うには向いていないような曲だが、弾き語りでも成立させていた。それは新しい発見でもあった。椎木が歌うことでまるでマイヘアの楽曲のように熱さが加わる。自身の音楽として昇華してる。興奮する椎木ガールズとむらた。

 

この瞬間だけ「椎木ガールズ&むらたかもめの日 特別編」になる。

 

 

むらたかもめの日である理由③

 

未発表曲や廃盤になり聴くことが難しくなった楽曲も多いクリープハイプ。それらの楽曲はライブでもほとんど演奏されないレア曲。しかし、自分が好きな楽曲はそのようなレア曲が多い。

 

この日は未発表曲も多く演奏された。歓喜するむらた。やはり「むらたかもめの日 特別編」だ。

 

「風邪をひかないように気をつけてください」とぼそっと話した尾崎世界観。

 

その後に演奏された曲は「商店街、手紙、天気予報」という未発表曲。ゆるい日常を歌った楽曲。それでいて、儚さや切なさを感じる曲。

 

新しい暮らしはどうですか

風邪を引いたりはしていませんか

僕はと言えば東京の中心で弾き語りをしてます

 

優しく歌う尾崎世界観。歌声が胸に沁みる。優しくこんな歌詞を歌われたら涙腺が緩んでしまう。

 

尾崎世界観は抽象的な表現と具体的な表現を組み合わせたが絶妙な歌詞を書く。情景が浮かぶ表現だけど詩的。後半に演奏された「exダーリン」はまさにそのような楽曲。

 

 ハニー 君に出会ったから色んな事わかったよ

アスカと綾波の違いとか あの娘とあたしの違いとか

 

悲しい色に染まった夕暮れが今日はやけに優しいな

あなたがくれた携帯のストラップ

大事な所はどっかにいって紐だけ残った

 

「アスカと綾波」など具体的すぎるぐらい具体的な表現も使う。でも現実的ではないような、映画の中の登場人物の話のようにも感じる不思議な歌詞。でもこの歌詞が大好きなんだ。

 

ねえダーリン 今夜も月が綺麗だよ

 

会場は東京の中心にある公園の野外ステージ。曇っていたのか、都会の灯りのせいなのか、この日の月は見えづらかった。 でも、音楽の力なのか、そんな月も綺麗に見えた。

 

心地よいギターの演奏と優しい歌声が、まるで尾崎世界観が自分に「月が綺麗だよ」と語ってくれているようにすら感じた。今度会ったらセッ〇スしたいと思った。

 

自分のために歌ってくれているように感じるライブ。「むらたかもめの日 特別編」は最高なライブで幕を閉じることになりそうだ。

 

 

いや、尾崎世界観の日だったかもしれない

 

メンバーがいなくなってしまった時期があって、自分1人だけになった時に弾き語り用の曲も作ってライブもやった。

バンドメンバーもいなくて1人でギターを背負って電車に乗ったりして、この先どうなるんだろうと思った日もあった。

でも今はバンドメンバーがいる。今のメンバーになって今年で10年目。

今はメンバーがいて嬉しいです。

 

尾崎世界観はひねくれ者だ。MCでもひねくれたことばかり言う。でも、最後のMCは全くひねくれてなかった。まっすぐな想いのこもった言葉に感じた。ひねくれ者だからメンバーがいない1人の時にしか言えないのかもしれない。

 

1人でステージに立つことはプレッシャーが大きいとも語っていた。バンドで演奏している時、そのような話を自分は聞いたことはない。たしかにいつもよりも緊張していたようには見えた。しかし、ゲストパートを除けば1人でステージに立ち、素晴らしいライブを作っていた。

 

1人で最高の演奏をしていたのに、それでも最後のMCはバンドメンバーへの感謝だった。1人で大きなステージに立つことで、バンドメンバーの大切さやバンドを続けることの喜びを再確認しているようにも思えた。

 

この尾崎世界観のMCの後、お客さんはみんな温かな拍手を贈った。この瞬間は「むらたかもめの日 特別編」ではなかった。みんなが尾崎世界観の音楽や想いに拍手している「尾崎世界観の日 特別編」だった。

 

いや、そもそも「むらたかもめの日 特別編」ではないのかもしれない

 

尾崎世界観の日でもむらたかもめの日でもない

 

終わった後、お客さんはみんな満足気な表情だった。みんないい表情。Twitterでライブの感想を調べると、多くの人が様々な感想をツイートしていた。感想の内容は十人十色だが、ライブを心から楽しんでいたことだけは共通していた。

 

エゴサしたらみんなライブにどんな髪型でどんな服を着て行こうかとかツイートしていて。どんな服でもいいのにね。どんな服でも愛しいのに。

 

尾崎世界観は序盤でこのようにMCをしていた。イケメンにしか許されないキザな台詞。イラついて尾崎の頭をスリッパでひっぱたきたくなった。

 

でも、みんなにとって今日は特別な日だったんだよね。大好きな音楽を生で聴きにいく特別な日。ライブ会場という非日常の空間に行く特別な日。

 

弾き語りだからわかりやすく盛り上がるライブではない。みんな座って真剣に聴いている。

 

それでも一体感はあった。一緒に聴いて一緒に感動していた。演奏後にはその感動した気持ちを拍手で表現した。同じ感情を分かち合った。みんなとは今度会ったらセッ○スしたい。

 

尾崎世界観にとってもゲストのコレサワや椎木知仁にとっても特別な日。会場にいたお客さん全員にとっても特別な日。みんなにとって特別な日だった。

 

「尾崎世界観 特別編」でも「むらたかもめ 特別編」でもなかった。いや、それは間違いではないけど、それだけではなかった。

 

このライブが一生の思い出になった人も、日々の活力になった人もたくさんいると思う。自分もこのライブのことは忘れない。特別なライブを観れた特別な日。

 

そういえばこの日の尾崎世界観こMCはずっと優しかった。ひねくれて尖ったことばかり普段は言うのに。何度もお客さんに「楽しんでますか?」と「自由にしてていいんだよ」と語りかけていた。

 

お客さん全員にとっての「特別な日」にしようと気づかっていた。「特別な日」にするために丁寧に演奏していた。

 

「尾崎世界観の日 特別編」 というタイトルのライブ。実際のライブの中身は「みんなの日 特別編」だった。

 

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