オトニッチ

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諭吉佳作/menを知らないなら今すぐに聴け今のうちから聴け

Macとグラスに入ったコイン

 

ステージにセットされたテーブル。その上にはMacBookと透明のグラスが置かれている。グラスの中には小銭が数枚。

 

諭吉佳作/menはMacBookを操作し音を出す。そこから流れるのはあらかじめ作られたオケ。所謂カラオケ音源だ。彼女はそれに合わせて歌う。

 

しかし、ステージでただカラオケを歌っているわけではない。演奏もしている。

 

時折グラスの中のコインを手で持ち、グラスの中へ落とす。グラスとコインのぶつかる音。それがオケと合わさる。生々しくフロアに響く音。

 

スマホを取り出しマイクにスマホをくっつける。そしてスマホで写真を撮る。撮っている場所はステージの床や壁。リズム楽器のようにシャッターを押す間隔を変えながら何度も撮る。オケに合わさるようにスマホのシャッター音が客席に流れる。それも楽曲の一部になる。

 

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諭吉佳作/menはソロアーティスト。1人でステージに立っている。楽器は持っていない。その代わり、楽器以外を使って音楽を作る。

 

いや、彼女にとっては身の回りのもの全てが楽器なのかもしらない。グラスに入ったコインもスマホのシャッター音もMacBookも、全てを音楽にしてしまう。

 

諭吉佳作/menは女子高生。2003年生まれの15歳。

 

音楽に年齢は関係ないとは思う。しかし、これが現代の若者にしかできない感性で、現代だから生まれた才能かもしれない。

 

誰にも似ていない立ち振る舞い

 

歌い始めた瞬間、何かに憑依されたように雰囲気が変わり空気を変化させるアーティストもいる。Coccoやビリー・アイリッシュもそのようなアーティストだと思う。

 

椎名林檎のように徹底的に考え抜き、パフォーマンスも演出も自分の世界観を構築し、それを演じることで個性を作り魅了するアーティストもいる。

 

等身大で親近感がわくようなMCや雰囲気でステージに立つことで惹きつけるアーティストもいる。aikoはこれに当てはまると思う。

 

個人的にステージ上で魅力を感じる女性アーティストは上記のいずれかに当てはまると思っていた。しかし、その考えは諭吉佳作/menにぶち壊された。

 

諭吉佳作/menはステージをゆっくり動き回りながらながら歌っている。目線はほとんど客席には向けない。曲の世界に入り込んで歌っているように見える。

 

たまにテーブルへ戻るとMacBookを触ったり、グラスの中へぱらぱらと落とす。曲の繋ぎ方はDJのようにスムーズ。それは音源とは違う繋がり方だ。

 

独特なパフォーマンス。不思議だけど魅力的で目が離せなくなる。もちろん楽曲や演奏でも客を自分の世界観に引き込む。

 

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しかし、何かに憑依されているやうな圧倒的なオーラは感じない。作り込まれた世界観で魅せているようにも思えない。等身大で親近感を感じるパフォーマンスでもない。

 

ステージの姿は普通の15歳の女子。立ち振る舞いは独特だがアーティストとしてのオーラとは違うようにも思う。立ち振る舞いも15歳の女子。

 

そんな女の子の歌声は上手いし個性的。リズム感も良い。流れる楽曲は作り込まれていてクオリティが高い。目の前の光景に「本当にこの子が作って歌っているのか?」と驚く。

 

それはギャップでもあり違和感でもある。他ではあまり経験したことがない不思議な感覚。

 

視点を変えると何かに憑依されているし、自分の世界観も演じているし、等身大とも言える。その全てをごちゃ混ぜにした結果、諭吉佳作/menにしかない不思議で魅力的な存在感になるのかもしれない。

 

つまり、めちゃくちゃ魅力的なアーティストという事だ。

 

水槽のガラスだけだよ

 

音源を初めて聴いた時も衝撃を受けた。諭吉佳作/menはSoundCloudやEggsに無料で作品をアップロードしている。それを偶然聴いてすぐに魅了された。

 

「水槽のガラスだけだよ」。これが最初に聴いた曲のタイトル。その個性とクオリティに驚いた。

 

 

コインを落とす音などポップスでは聴きなれない音も含まれているが、曲を構成している音のフレーズは基本的にそれぞれシンプル。ピアノの音が印象的な曲だが、それも複雑な演奏ではない。それなのに耳から離れない。

 

他の楽器の音も同様だ。シンプルで複雑なことはしていない。そんな音が重なると不思議なことに、今まで聴いたことのないような響きにる。

 

水槽のガラスだけだよ

貴方と僕とを隔てるものなどは

 

そんなバックトラックに歌が乗っかった瞬間、諭吉佳作/menにしか作れない音楽になる。

 

耳に残る個性的な歌詞。キャッチーで覚えやすいメロディ。彼女はリズム感が良い。言葉のメロディへの乗せ方も心地よい。歌も上手いし個性的な声。それらが重なると歌の印象が強く残る。

 

それは聴きなれたボップスにも感じるし、今まで聴いたことのない新しい音楽にも感じる。

 

『非常口』という楽曲でも同じように凄まじい才能を感じる。聴けばすぐに「諭吉佳作/menの作った楽曲」で「諭吉佳作/menが歌う楽曲」と分かってしまう。そんな個性が既にある。

 

 

難しいことや複雑なことをやっているわけではない。それでも真似が出来ない。テクニックよりもセンスが大きく影響した楽曲作りに思う。そのセンスが唯一無二なのだ。

 

まだ完成されていない凄さ

 

諭吉佳作/menはまだ成熟はしていないアーティストだと思う。

 

楽曲やライブのクオリティは現時点でも高い。だがまだ伸び代があるはずだ。制作された楽曲もまだ10曲前後。ライブをやり始めたのは最近の話。

 

キャリアは短い。新人の中でも特に駆け出しの部類。

 

もっと経験を積めば、さらに凄いライブパフォーマンスができるかもしれない。今後さらに様々なことを吸収して、もっと刺激的な音楽を生み出すかもしれない。

 

今は1人で楽曲制作をしている諭吉佳作/men。今後他のアーティストと一緒に音楽を作ったとしたら、もっと凄いことになるかもしれない。

 

腕のあるミュージシャンをバックバンドにして音源を作ったりライブを行ったらどうなるだろうか。他のアーティストとコラボをしたりユニットやバンドを組んだらどうなるだろうか。

 

想像するだけでも凄いことになるのではと期待が膨らむ。

 

音楽を評価する際に年齢や性別や国籍は関係ない。「誰が作ったか」ではなく「どんな作品か」が重要だ。もしも諭吉佳作/menが15歳でなくても評価はされていたと思う。

 

それでも、若いことは大きな武器になる。

 

若いほど今後多くの経験も詰める。成長するためのチャンスや新しい音楽を生み出すきっかけも多い。

 

それそ音楽ファンとして今後期待するための要因にもなる。無料で使える初心者向け音楽制作ソフトのGarageBandで作品を作っているのに、プロにも負けない音楽を作っている。

 

こんな才能の塊が成長したら、今後どのような音楽を生み出すのか。想像するだけでワクワクが止まらない。

 

諭吉を渡したい

 

一般リスナーだけでなく、少しづつメジャーの音楽業界にも注目され始めている。

 

未確認フェスティバルでは審査員特別賞を受賞した。先日はでんぱ組.incへの楽曲提供が発表された。

 

彼女の才能を認める人達がどんどん増えている。彼女の音楽に価値を感じ、お金を出して使いたいと思っている人達が増えている。

 

リスナーだって同じだ。諭吉佳作/menの音楽に価値を感じている。しかし、リスナーは諭吉佳作/menの音楽にお金をほとんど使っていない。

 

使いたくても使えないのだ。

 

諭吉佳作/menは作品をネットにアップロードしている。全て無料で聴くことができる。そのためCDは作られていない。グッズだってない。

 

ファンが彼女の音楽に対価を払えるのはたまに行われるライブの入場料ぐらいだ。ライブでは他のアーティストと違い物販はない。あるのかもしれないが、自分が観たライブで行っていなかった。

 

作品発表だけならネット上で簡単にできるかもしれない。金銭を稼ぐことが目的ではなく、純粋に音楽を作ることを楽しみネットを使い届けてくれてるのだと思う。ファンとしても無料で聴けることはありがたい。WinWinの関係だとは思う。

 

それでも音楽に感動した気持ちを対価としてこちらも表したい。だからCDやグッズを作って欲しい。買うから。CDやグッズを作る資金がないならクラウドファンディングをしてくれ。出資するから。

 

CDやグッズに合計1万円ぐらいなら即座に出す。諭吉佳作/menの作る音楽には1万円以上の価値は感じているからだ。福沢諭吉1枚ぐらいなら実質無料な気持ちだ。

 

諭吉佳作/menに諭吉を1枚渡したい。

 

自分は「諭吉渡す/men」になりたい。

 

↓諭吉佳作/menの曲が1曲だけ収録されているコンピはあります。

未確認フェスティバル2018

未確認フェスティバル2018