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フジファブリックの新作『F』に志村正彦の存在を感じてしまった〜アルバムレビュー・感想〜

カウントダウンジャパンでの手紙

 

「2009年はCDJのステージに立たなくて、ステージのモニターにその日にやる予定だったセットリスト順に自分達の曲が流されるのを袖で見ていて、それが悲しくて悔しくて・・・。来年15周年で節目の年なんですが、志村くんも一緒に未来に連れていきます」

 

2018年12月29日のカウントダウンジャパンのフジファブリックのステージで、山内総一郎はMCでこのように話していた。

 

このMCの後に演奏されたのは「手紙」という曲。山内総一郎が故郷の大阪を想って書いた楽曲だ。そして、地元から遠く離れた場所で友を見つけたと歌っている楽曲でもある。

 

手紙 (Album ver.)

手紙 (Album ver.)

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

魂のこもった素晴らしい演奏だった。聴いていて、涙が溢れそうになった。「手紙」だけではない。この日に演奏された他の楽曲の演奏も素晴らしかった。いつも以上に魂がこもっていた。

 

そんなことあるはずはないが、この日のライブは志村がステージに居たような気がした。Twitterでの他のお客さんの感想を読むと、同じように感じていた人も少なくはないようだ。

 

フジファブリックは2019年でデビュー15周年。そんな節目の年に『F』というタイトルのアルバムをリリースした。このアルバムに『手紙』も収録されている。多くの人に勧めたい名盤だ。聴いていて、泣けてくるほどに。

  

このアルバムを聴いた時、カウントダウンジャパンでのフジファブリックを観た時と同じような感覚になった。

 

まるで、アルバムの中に志村正彦がいるような感覚になった。

 

「最高傑作」なのか?

 

メンバーは『F』を「最高傑作」と言っている。そう言えるほど完成度の高い楽曲を作り、最高の演奏を収録できたと言う自信があるのだろう。

 

しかし、最高傑作と言う理由は他にもあるかもしれない。楽曲や演奏は前作も素晴らしかったし、過去作も同じぐらいに完成度が高い。

 

今回初めて内容より先にアルバムのタイトルを考えたんです。「F」っていうバンドの頭文字をとって。「F」ってつけたのは覚悟というか、「F」が FINAL の F になっても悔いがないようにしようと。それぐらいのものじゃないとフジファブリックらしくないと思ったんです。人生を賭けてやってる、その思いはどんどん強くなってきているので、全部詰め込めこんじゃおうという、それが最高傑作という所以かなと思います。

 

 山内総一郎はライブドアニュースのインタビューでこのように語っていた。最初から「最高傑作」をテーマにアルバム制作を始めたとも語っていた。

 

いつも以上に気合を入れて作っていたということだ。いつも以上に強い想いを込めていたのだと思う。フジファブリックのデビュー15周年にふさわしいアルバムをつくるために。

 

その想いは自分にはしっかり届いた。聴いていて涙が出てくるような、想いのこもった名盤に思った。フジファブリックの15年の歴史には志村正彦もいる。だから、全部を詰め込んだような作品である『F』に志村が存在しているように感じたのかもしれない。

 

『F』はどのようなアルバムなのか

 

『F』を聴いていて、自分は泣いてしまった。しかし、わかりやすくて感動的な楽曲が揃っているわけではない。壮大なバラードも感動的なラブソングも収録されていない。

 

アルバムから聴こえてくる音楽は、いつも通りのフジファブリックだ。いや、いつも以上にフジファブリック的なフジファブリック。フジファブリックにしか作れないような唯一無二の曲ばかりだ。

 

『F』はつかみどころがないアルバムだ。こう言うとマイナスの表現にも聞こえるが、プラスの意味で言っている。かっこいいし良い曲ばかりなのに、すごく変なアルバムなのだ。

 

『Walk On The Way』と『破顔』と15年の歴史があるから鳴らせるような渋くて痺れる演奏とストリングスの共演で圧倒されるような楽曲もあれば、『手紙』のような感動的な曲もある。

 

破顔

破顔

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

『恋するパスタ』のような楽しくなるようなポップスもある。『Feverman』や『前進リバティ』のようなタイトルも曲も癖のある変な曲もある。

 

恋するパスタ

恋するパスタ

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 アルバムの最後に収録されている『東京』という楽曲もすごい。癖になるメロディと今までのフジファブリックにありそうでなかったような編曲。15周年の集大成のアルバムと思わせといて、アルバムラストに今後のフジファブリックの作品が楽しみになるような「次に繋がる楽曲」を持ってきた。

 

東京

東京

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 アルバムにはバラエティ豊かな曲が並んでいるのに、何故かまとまりが良い。アルバムを通して聴いていると心地よいし、この曲順だからこそそれぞれの楽曲が引き立っているようにも思う。

 

それなのに、このアルバムの魅力を一言で説明できない。

 

訊かれても「名盤」「少し変わっている」「最高」など語彙力のない感想しか言えない。しかし、そんな一言で片付けられない魅力がある。それを説明できないのがもどかしい。

 

この感覚、自分がフジファブリックを初めて知った時の感覚と似ている。

 

ラジオで初めて曲を聴いて存在を知った時、今まで聴いたことがないような変な曲なのに、めちゃくちゃ良いと思って体に電流が走るような衝撃を受けた時と似ている。

 

アルバムを買い通して聴いた時に、ヘンテコなアルバムなのにかっこよくて、最高だと思って心が震えた時の気持ちと似ている。

 

それは志村正彦のいたフジファブリックだった。志村正彦作詞作曲の才能と個性的な歌声に惹かれたことが好きになったきっかけだ。

 

しかし、『F』から志村のいた頃のフジファブリックの匂いを強く感じた。それでいて、さらに進化したフジファブリックも感じた。志村が生きていたとしても、『F』のようなアルバムを出していたのではと思えるような感覚。

 

このヘンテコなアルバムを聴いて、改めてフジファブリックが大好きだと思った。そして、ヘンテコなアルバムを聴いていたら、なぜか泣けてきた。

 

志村くんも未来に連れて行く

 

CDJのMCで言っていた「志村くんも未来へ連れて行く」という言葉。もしかしたら、すでに未来に連れて行っているのかもしれない。

 

フジファブリックは今でも志村正彦の作った楽曲を演奏し歌い継いでいる。ライブのMCやインタビューでも彼について話すことは少なくはない。思い返すと、現体制になってからの曲で「この曲は志村を思い出すなあ」と思う曲も少なくなかった。

 

 フジファブリックはずっと志村も一緒に活動しているのかもしれない。そして、『F』では「連れて行く」というよりも「隠れていたから引っ張り出した」と思えるような感じ。4人のフジファブリックをより強く感じる。

 

『F』の収録曲を聴くと、志村が曲の中にいるような気がするんだ。彼の個性的な歌声は聴こえないけども。

 

昔はフジファブリックを聴いていたけども、今のフジファブリックは聴いていないという人は多いかもしれない。志村がいなくなって聴かなくなった人や、辛くて聴けなくなってしまった人もいるかもしれない。

 

そんな人にこそ、今のフジファブリックを聴いて欲しい。本人たちが「最高傑作」言っている新作の『F』を聴いて欲しい。

 

アルバムの中の音楽には、志村正彦もいる。「未来に連れてく」という言葉に嘘はない。今のフジファブリックにも志村はいる。

 

メンバーが今作を「最高傑作」と言う最大の理由は、志村も含めた15年間のフジファブリックの魅力がアルバムの中に存在するからではないだろうか。