オトニッチ

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エレカシの新譜『Wake Up』を若者に聴かせたい理由〈感想・レビュー〉

デビュー作のようなベテランの作品

 

エレカシの新しいアルバムを聴いてみた。

結成37年目、デビュー30年目のバンドのアルバム。

このアルバム、凄く良いのですよ。、

 

エレファントカシマシの貫禄を感じる作品。

それでいて初々しさすらあり、デビューしたてのバンドのような雰囲気もある。

 

言っていることが矛盾しているのは分かっている。

でも、1度聴いてみて欲しい。聴けばわかるはずだから。

そんな矛盾すら肯定できる作品なんだよ。

 

かっこいい作品なんだ。良い曲が沢山詰まっている。

エレカシはベテランでありつつ若手のような勢いや衝動も持っている。

そんなバンドの魅力が詰まっていて、きちんと表現されている。

 

『Wake Up』はエレカシに知らない人にも、魅力が伝わりやすいような作品に感じる。

 

だから、エレカシを知らない人や、ベテランすぎて避けている若い人にこそ聴いて欲しいんだ。

 

こんなカッコいいバンドがいるんだって知って欲しいんだ。

 

エレカシのバンドサウンド

 

最近のエレファントカシマシの楽曲はメンバー以外の音が印象的な作品が多かった。

シンセサイザーやストリングスを使用した壮大な楽曲や、感動的な楽曲など。

その編曲はベテランバンドの風格も感じる音。

 

しかし、新作の『Wake Up』の音は少しだけ違う。

 

今作にもストリングスやピアノなどメンバー以外の音が収録されている楽曲もある。

しかし、それ以上にメンバーの奏でる楽器の音が印象的なのだ。

外部の音は控えめになり、メンバーの音が目立つ編曲。

 

その音が生々しく感じる。

複雑な演奏や凝ったフレーズを弾いているわけではない。

どちらかというとシンプルな演奏。

 

それなのに、とても魅力的な演奏に感じるのだ。

まるで勢いのある若手バンドのように衝動で演奏しているよう。

そこにテクニックなんて二の次で良いんじゃないかと思えるような、魂の込められた宮本浩次のボーカルが重なる。

 

上手いか下手かではない。それはむしろどうでも良いこと。

人を惹きつけるために最も重要なことはそれではない。

魂がこもっているか、他にない唯一無二な存在なのかが重要だ。

 

『Wake Up』のエレファントカシマシは、まさにそれなんだ。

 

エレカシの衝動

 

Easy Go

Easy Go

  • エレファントカシマシ
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 アルバムのリードトラックの『Easy Go』。パンクロックを感じるサウンドと勢い。

デビュー30年を超えたバンドが衝動的に勢いで突っ走っているかのような曲。

 

しかし、雑に演奏しているわけでもないし、荒々しい演奏というわけではない。

勢いはあるが、良く聴くと演奏は丁寧。

ボーカルも荒々しく感じるかもしれないが、表現力が豊かで様々な表情を感じる歌い方だ。

 

若手のバンドの演奏に「初期衝動」という表現を使用することがある。

技術はまだないかもしれないが、センスや勢いなど光るものは持っていて、惹きつけられてしまうような若手バンドに使う表現。

 

エレファントカシマシにもそのような「衝動」を感じる。特に『Wake Up』の収録曲には。

しかし、エレカシは若手バンドではない。超ベテランバンドだ。

技術や表現力もずば抜けてあるし、他にはない個性をもっている。

そんなバンドが30周年の節目に衝動を感じる演奏をしている。

 

これは「30年目の衝動」と呼びたい。

 

この衝動は若手バンドでは感じることができないタイプの衝動で、他のベテランバンドでもなかなか聴くことができないものだ。

 

なぜ若者に聴いてほしいのか?

 

エレカシは今でも音楽フェスには多く出演している。CMやドラマタイアップの曲も多い。

若い人でもエレカシの音楽に触れたことがある人は少なくはないと思う。

 

しかし、音源をしっかり聴いてみたりライブをガッツリ集中して観たことがある若い人は少ないのかと思う。

やはり年齢関係なく、自分の世代に近いバンドの方が好みに合うのだとは思う。

アラサーの自分もそうだからわからなくはない。

 

そんな人にもエレカシの新作は聴いてほしいんだ。

 

エレカシは大ヒット曲があったわけではないし、全てが順調な活動だったわけではない。

しかし、デビュー30年を迎えた今もメンバーは一度も変わらずに現役バリバリで若手に負けない勢いでライブを行い名曲を作っている。

これはバンドを続けることの1つの理想の姿にも思う。

 

エレカシを聴いていると自分が好きな若手バンドもバンドも同じように続けられたらなと想像する。

地道にファンを増やし、ライブハウスでもライブをして、コンスタントにアルバムを出して、たまにアリーナでライブやったり。

バンドとしての生きざまがカッコいいのだ

 

『Wake Up』はデビュー30周年の節目に発売されたオリジナルアルバム。

エレカシのバンドとしての生きざまが過去のアルバム以上に音になって表現されているように思う。

 

その生きざまに触れてほしいなと思う。

その生きざまに触れると、不思議なことに普段自分が聴いている他のバンドもより応援したくなるんだ。

聴いていてそんな感情になる音楽は、エレカシ以外には殆ど知らない。

それを感じてほしい。

 

それが、エレカシを聴いてほしい理由。

 

というわけで、エレファントカシマシの『Wake Up』を聴きましょう。