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星野源の新曲『ドラえもん』はアニメソングとしてはどうなの?【感想・レビュー】

星野源が憎たらしい

 

ここ数年の星野源が憎たらしくて仕方がない。良い音楽をやっていることはわかっている。自分も好きな曲がたくさんある。しかし、『SUN』をリリースしたあたりから憎たらしいのだ。その頃から俳優としても歌手としても「国民的」と言えるほどの人気になった。Mステではカメラ目線で笑顔でピースまでするようになった。雑誌の表紙でもドヤ顔をする。こっち見んな。

 

 

何が憎たらしいかと言うと、俳優としても歌手としても才能があることだ。演技も歌も特別上手いわけではないけども、個性もあるし唯一無二。認めざるを得ない。あと、凄くイケメンというわけではないけど良い顔してるし、愛嬌があり女子にモテるところ。よく考えたら憎い理由の120%は女子にモテるところだ。モテることが気にくわない。憎い。

 

そんな星野源が女子だけでなく子どもにまでモテようとしている。「映画ドラえもん のび太の宝島」の主題歌に新曲が使われているのだ。子どもに愛される男は女子にモテる。星野源はそれを狙っているのだろうか。憎たらしい。曲名は「ドラえもん」。あざとい。

 

ドラえもん

ドラえもん

  • 星野源
  • J-Pop
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この曲、めっちゃ良い。しかし、この曲が子どもに好かれるような曲かと言うと、どうなのだろうと思う。この曲では子どもの心はつかめないと思う。残念だったな。星野源。

 

 

 ドラえもんを意識した歌詞

 

『ドラえもん』というタイトルと同様に、歌詞もドラえもんを意識しているような内容だ。

 

少しだけ不思議な 普段のお話
指先と机の間 二次元

落ちこぼれた君も 出木杉あの子も
同じ雲の下で暮らした次元 そこに四次元
機械だって 涙を流して
震えながら 勇気を叫ぶだろう。

 

 映画ドラえもんの主題歌としてここまで原作を意識した歌詞は今までなかったかと思う。テレビ版の主題歌だった「夢を叶えてドラえもん」や「ドラえもんのうた」 に近い方向性だ。

 

夢をかなえてドラえもん

夢をかなえてドラえもん

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ドラえもんのうた

ドラえもんのうた

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しかし、この2曲とは違う部分がある。星野源の歌詞は子ども向けのアニメソングとしては凝りすぎているのだ。「普段」や「指先」など小学生以下の子どもが聞きなれないであろう言葉が使われている。

 

また、藤子・F・不二雄がSFを「少し不思議」と訳したエピソードなど、ドラえもんの内容に関連するフレーズや作者の藤子・F・不二雄の発言へのオマージュも盛り込まれている。これは子どもには気づかない部分でもあり、大人だから楽しめる部分かと思う。

 

子どもには理解できない歌詞

 

背中ごしの過去と 輝く未来と
赤い血の流れる
今へつなごう 僕ら繋ごう
すねた君も 静かなあの子も

台風だって 心を痛めて
愛を込めて さよならするだろう
君が残したもの 探し続けること
浮かぶ空想から まだ未来が生まれる

 

 上記の歌詞を読んでみて欲しい。詩的な表現で比喩も綺麗。「すねた君も 静かなあの子も」とドラえもんの内容にも触れるダブルミーニングもしている。センスが良い。作り込まれているし、星野源らしさもある良い歌詞だと思う。

 

しかし、この内容を子どもが理解することは難しいと思う。子どもには聞きなれない言葉も使われているし、「背中ごしの過去と輝く未来と」という表現も大人だからこそグッとくる表現にも思う。

 

タイトルや歌詞に出てくるドラえもん関連のワードは一見子ども向けアニメソングにも思えるが、聞けば聞くほど子どもにはとっつきにくい歌詞で、大人が唸ってしまう表現であふれている。  

 

映画ドラえもんの魅力を引き立てる歌詞を書いたというよりも、ドラえもんを利用して星野源の作品として魅力的な歌詞を書いたという感じだ。

 

複雑な曲構成

 

曲は4拍子で一般的なポップスに多い拍子。子ども向けのアニソンでもよくある拍子。しかし、少しだけ複雑な構成になっている。

 

子ども向けのアニメソングは、子どもが鼻歌で歌いやすいリズムやメロディであることも重要かと思う。アニソンを通じ、聴くだけでなく歌うことで音楽を奏でる楽しみを知るのだと思う。

 

星野源の『ドラえもん』は4拍子でもリズムパターンは変わる。その変化が聴いていて飽きさせない工夫にもなっていて、楽曲のクオリティを上げているとは思う。しかし、そのリズムに合わせて歌うのは少し難しい。サビの最後の「どどどどどどどどどドラえもん」というフレーズもリズム感がなければ歌えない。

 

メロディはキャッチーで星野源ぽさも感じるメロディだ。しかし、少し複雑なメロディ。そして、星野源の歌唱は音程を下から上にしゃくり上げる「しゃくり」というテクニックを使っている。「しゃくり」がこの曲のメロディの良さを構成する要素で重要になってくる。特にAメロ。これは子どもが歌うには難しいかもしれない。

 

子どもが歌えない理由

 

星野源の『ドラえもん』 には子どもが歌いづらい最大の理由がある。それは、星野源が歌っていることだ。

 

アニメソングはキーが高い曲が多い。声変わり前の子どもの声は高いので、子どもが歌いたいと思う曲は自然とキーが高い曲になるのではと思う。それは女性歌手が歌ってる曲はもちろん、男性歌手が歌っている曲もキーが高い。

 

例えばドラゴンボールZの主題歌だった「CHA-LA HEAD-CHA-LA」。この曲も男性歌手の曲だがキーが高い。これぐらいのキーが子どもが歌いやすいちょうど良いキーなのかもしれない。この曲をへっちゃらに歌える一般の成人男性は少ないだろう。

 

CHA-LA HEAD-CHA-LA (ドラゴンボールZ)

CHA-LA HEAD-CHA-LA (ドラゴンボールZ)

  • 影山ヒロノブ
  • アニメ
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星野源はキーが低い。子どもが歌いづらいキーだ。特に『ドラえもん』は星野源の声が最も映えるキーと歌い方になっている。最近の作品である「恋」や「Family Song」では裏声も使っていたが『ドラえもん』では使っていない。最近の作品の中でもキーは低めなのだ。つまり、アニメソングとしてよりも星野源の曲として魅力的な作品になっている。

 

恋

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ドラえもんの魅力を引き立てる曲を作ったというよりも、ドラえもんを利用して星野源の曲として魅力的な作品を作ったという感じだ。

 

やっぱり星野源が憎たらしい

 

ここまで文句をさんざん言ってきたが、「子供向け」という部分を考えなければ、「映画ドラえもん」のタイアップとしてはタイアップ先に合う歌詞だし、星野源としても自分の個性を出せていると感じる名曲だと思う。星野源の新しい一面や魅力が引き出せている楽曲に感じる。

 

そもそもアニメソングをメインで書いている歌手ではないにも関わらず、これほどアニメに寄り添った内容で、敬意を感じる歌詞を書く人は今までいなかったのではないだろうか。 タイトルを「ドラえもん」にする発想も、歌詞にドラえもんに関連する言葉や想像させる言葉を盛り込む遊び心も、星野源だからこそできたことだと思う。

 

しかし、やっぱり星野源が憎たらしい。この曲で子どもの心をつかめるかというと、それほどつかめないとは思う。その代わり、子どもといっしょにドラえもんの映画を観に来たお母さんの心はがっつりつかんでしまうだろう。だって、星野源の魅力がつまった名曲になっているのだから。

 

国民的アニメの主題歌を歌うことで、子ども人気を獲得するのではなく、女性人気をさらに拡大させそうだ。けっきょく星野源は女子にモテるのだ。まだまだモテようとしているのだ。そして憎たらしいと思っても良い曲を作りやがるから男も聴いてしまうのだ。自分もCDを買ってしまった。悔しい。

 

やっぱり星野源が憎たらしい。

 

 ↓早めに買うとクリアファイルがつくみたいです