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【アルバムレビュー】欅坂46『真っ白なものは汚したくなる』感想とコンセプトの考察

とんでもないボリューム

 

欅坂46がアルバムを発売しました。

『真っ白なものは汚したくなる』というタイトル。

タイトルからなんとなくアイドルなのにアイドルに対するアンチテーゼを感じる。

 

通常版と初回盤Aと初回盤Bの3形態が発売されたわけですけど、それら3形態の収録曲を全て合わせると40曲。

初回盤AとBで収録曲が違うという阿漕な商売は秋元関連のアイドルらしさも感じるけども。

 

AKBとか秋元康関連のグループはあまり聴かないのだけども、欅坂46はデビュー曲のサイレントマジョリティから最新シングルの不協和音までどの曲も外れがなくてずっと注目している。

曲もコンセプトも他のAKBグループとも乃木坂46とも違って気になり続けている。

 

そして満を持してのアルバム発売ですよ。

全曲聴きましたよ。

それで感じたことは。

これは1stアルバムというより、1stアルバムから3rdアルバムまで同日発売したようにも感じる作品だ。

 

通常版と初回盤AのDisk2と初回盤BのDisk2とでは3枚ともコンセプトが違うように感じた。

もしかしたら、これは大ボリュームのコンセプトアルバムなのかもしれない。

そのことについて、考察もふくめ感想を書いていこうと思う。

 

 

通常版について

 

収録曲

1.Overture
2.サイレントマジョリティー
3.手を繋いで帰ろうか
4.キミガイナイ
5.世界には愛しかない
6.語るなら未来を…
7.ひらがなけやき
8.二人セゾン
9.制服と太陽
10.誰よりも高く跳べ!
11.大人は信じてくれない
12.不協和音
13.僕たちは付き合っている
14.エキセントリック
15.W-KEYAKIZAKAの詩
16.月曜日の朝、スカートを切られた

 

収録曲は上記の16曲だ。

シングル曲やシングルのカップリング曲が中心の今までに発表された楽曲が中心の内容だ。

この中で初収録は16曲目の『月曜日の朝、スカートを切られた』のみ。

 

内容について

通常版は”デビューから今日までの欅坂46のまとめ”的なアルバムだ。

早くもベスト盤をリリースしてしまったかのような作品。

シングル曲はすべて収録されているとともに、ひらがなけやきやW-KEYAKIZAKAの詩などバラエティに富んだ収録内容だ。

サイレントマジョリティーのような楽曲の完成度の高さでリスナーをうならせる曲もあれば、手をつないで帰ろうかのようなかわいらしいアイドルソングも収録されている。

 

様々なタイプの楽曲が収録されているため中だるみすることもなく最後まで聴ける。

曲のmixのバランスはバックの演奏よりも歌が目立つようなmixにはなっているが、アイドルのアルバムとは思えないほど完成度の高いアルバムだと思う。

 

今までのシングル曲をカップリング含め順番に詰め込んだだけとも言えるけど。 

 

 最後の新曲の後味の悪さ

通常版の最後に収録されている曲が新曲の『月曜の朝、スカートを切られた』という曲だ。

この曲が最後に収録されていることによってアルバムの余韻が不穏なものになっている。

それによってこのアルバムがただの曲の詰め合わせのアイドルのアルバムではないということを示しているように感じる。

 

この曲の歌詞を簡単にまとめると、通学の電車で誰かにスカートを切られたが切った犯人に対して「ストレス溜め込んで憂さ晴らしか」と思いつつも悲鳴はあげないと歌っている。

 

 👇画像をクリックで動画になります


欅坂46 『月曜日の朝、スカートを切られた』

 

”目立たないように息を止めろ”

”大人になるため嘘になれろ”

 

歌詞に上記のようなフレーズがある。

タイトルのインパクトと同様、とても暗くて絶望的な内容だ。

 

サイレントマジョリティでは”大人たちに支配されるな”と歌い”YESて言いなよ”と歌っていたにも関わらず、この曲では大人に反抗することもできず、大人に支配されている状態と言ってもいい。

 

欅坂46自体が大人にやらされてるからしはいされてるようなものという突っ込みはなしの方向でお願いします。

 

サイレントマジョリティと月曜日の朝、スカートを切られたとの関連は?

 

”月曜日の朝、スカートを切られた”は”サイレントマジョリティ”の前の物語らしい。

そのことはメンバーの菅井友香の公式ブログに書かれていた。

 

出典:菅井 友香公式ブログ | 欅坂46公式サイト

 

つまり、『月曜日の朝、スカートを切られた』では危害を与えられても声を上げることはできなかったが主人公が『サイレントマジョリティ』で“YESでいいのか”“NOと言いなよ”大人たちに支配されるな“と主人公が言えるようになったという流れのようだ。

 

それならばアルバムのオープニングは『月曜日の朝、スカートを切られた』にした方がしっくり来たのではないかと思う。

実際にはこの曲はアルバムのラストであり、オープニングはイントロデュース的なインスト曲の『Overture』はあるがアルバムの最初は『サイレントマジョリティー』である。

 

なぜサイレントマジョリティーから始まるのか

 

ぶっちゃけ有名曲だしこれを聴きたくてアルバムを買う人が多いという予想で1曲目にしたのだろう。

でも、あえて深読みするとこれは若いリスナーへのメッセージではと感じた。

 

このアルバムの主人公を1人設定してみる。

アルバムを1つの物語として考えると、サイレントマジョリティーで大人たちに支配されるなと歌っていた主人公は15曲目のW-KEYAKIZAKAの詩という希望に溢れた曲を歌っている。

ちなみに、初回盤Aと初回盤BのDisc1は15曲目のW-KEYAKIZAKAの詩が最後の曲だ。

つまり、本来のアルバム最後の曲はW-KEYAKIZAKAの詩で幸せに終わるハッピーな余韻を残すアルバムではないだろうか。

 

ではなぜ通常盤は『月曜日の朝、スカートを切られた』で終わるのか。

それは通常盤を最後まで聴いたリスナーに、「次はこのアルバムを最後まで聴いたあなたがサイレントマジョリティーを歌う番だ」というメッセージが込められているのかもしれない。

アルバムを聴いたリスナーもサイレントマジョリティーから始まる物語を体感する番だというメッセージではないだろうか。

 

ぶっちゃけリリースの時系列に並べたから新曲を最後にしただけだろうけど。

 

初回盤Aについて

 

初回盤AはCD2枚組と特典映像が収録されたDVDの3枚組だ。

CDの1枚目は通常版と同じ内容だが、通常版の最後に収録されていた『月曜日の朝、スカートを切られた』は2枚目の1曲目に収録されている。

 

Disk2の収録曲

 

1.月曜日の朝、スカートを切られた
2.渋谷からPARCOが消えた日
3.少女には戻れない
4.乗り遅れたバス
5.東京タワーはどこから見える?
6.100年待てば
7.沈黙した恋人よ
8.チューニング
9.青空が違う
10.夕陽1/3
11.猫の名前
12.太陽は見上げる人を選ばない
13.危なっかしい計画
14.自分の棺

 

Disk1は通常版から『月曜日の朝、スカートを切られた』を除く15曲に対し、Disk2は上記の14曲が収録されている。

赤字になっている曲は今作で初収録の新曲だ。

 

月曜日の朝、スカートを切られたがDisk2に収録された理由

 

これに関しては通常版の考察にも一部書いてみた。

Disk1は本来ならばW-KEYAKIZAKAの詩で終わっている作品ではと考察した。

そして『月曜日の朝、スカートを切られた』から始まるのか?

 

これに関しては、このアルバムを1つの物語と考えると、Disk1とDisk2では時系列で考えるとDisk2の方が先なのではないだろうか。

時系列では『月曜日の朝、スカートを切られた』は『サイレントマジョリティー』の前の曲だということは、メンバーでもある菅井友香のブログでも言及されている。

ちなみにそのブログには下記のように書かれている。

 

この曲はサイレントマジョリティーでみんなが集結する前のストーリーなんです!

(菅井友香公式ブログより引用)

 

みんなが集結する前ということは、MVと同様サイレントマジョリティーは複数人が集まっているとわかる。

このことから、Disk2はサイレントマジョリティーで集まる中の1人の物語と考察できる。

Disk1を本編とするとDisk2はアナザーストーリー的な立ち位置だろうか。

 

Disk2の主人公は絶望している?

 

初回盤AのDisk2の最後に収録されている曲は”自分の棺”という曲だ。

タイトルからしてわかるように、暗い曲だ。

曲調もそうだが、歌詞も暗い。

 

”偽りだらけのショーウィンドウ 嫌いな顔が写っている”

 

上記は歌いだしの歌詞だが、最初から暗い。

サビでは”心 少しずつ死んでいく”と歌っている。

希望のかけらもない曲だ。

 

そしてこの曲は平手友梨奈がソロで歌っている曲でもある。

大人数のグループでのソロ曲でこの歌詞だと余計に寂しさや孤独を感じさせる。

 

他の曲もタイトルが暗い曲が多い。

 

危なっかしい計画と自分の棺の関係性は?

 

初回盤AのDisk2は最後の曲である自分の棺の前に収録されている曲は”危なっかしい計画”という曲だ。

そして初回盤Bの最後に収録されている曲だ。

初回盤Bには自分の棺は収録されていない。

 

危なっかしい計画の歌詞を簡単に一言でまとめると、「夏の渋谷でうかれちゃって色々と経験したいと思っちゃってる女の子」の歌だ。

”月曜の朝、スカートを切られた”から”危なっかしい計画”までの流れで渋谷に来た主人公。

ここからサイレントマジョリティーにつながるということだろう。

 

初回盤Aの主人公と初回盤Bの主人公は友人同士で”危なっかしい計画”で渋谷に来たと仮定してみる。

そして初回盤Aの主人公は初回盤Bの主人公といっしょに渋谷で楽しんでいるようで、実は内心”自分の棺”の内容のようなことを考えていたのではないだろうか。

夏の渋谷で浮かれているようで、実は渋谷の街のショーウィンドウを見て、”偽りのショーウィンドウ 嫌いな顔が写っている”と思っていたのかもしれない。

 

初回盤Aの主人公はこのような絶望の気持ちを持ちつつも友人(これだけ絶望しているから友人と思っていないかもしれないが)に連れられて渋谷に来て、サイレントマジョリティーへと繋がりDisk1の物語へ続いていったのではないだろうか。

 

 初回盤Bについて

 

Disk2の収録曲

 

1.月曜日の朝、スカートを切られた
2.君をもう探さない
3.渋谷川
4.夏の花は向日葵だけじゃない
5.1行だけのエアメール
6.AM1:27
7.ここにない足跡
8.永遠の白線
9.バレエと少年
10.僕たちの戦争
11.微笑みが悲しい
12.割れたスマホ
13.危なっかしい計画

 

初回盤BはDisk1は初回場Aと同様の収録内容で、Disk2は”月曜の朝、スカートを切られた”から始まるものの、最後は”危なっかしい計画”で終わる。

赤字になっているものは今作で初収録の新曲だ。

 

初回盤Aよりも明るい曲調

 

曲のタイトルはマイナス要素を含んでいるものの、曲調や歌詞は総じて初回場Aよりも明るいように感じる。

これは初回盤Aの主人公よりも初回盤Bの主人公の方が明るい性格だということを表しているのではないだろうか。

 

そして最後は初回盤Aの考察でも触れた”危なっかしい計画”で終わる。

”夏に浮かれた女の子”の歌で終わるのだ。

初回盤Aの主人公のように”自分の棺”のようなことは考えてはいないであろう。

 

複数の主人公のW-KEYAKIZAKAの詩までのストーリー

 

ここまでをまとめると初回盤Aと初回盤Bでは違う主人公の物語でそれぞれタイプも性格も違う主人公であるとわかる。

しかし、どちらの主人公も渋谷に来て、どちらの主人公もサイレントマジョリティーへと繋がり同じ物語をたどっていくことがわかる。

 

通常盤の主人公も初回盤Aと初回盤Bとでは違う主人公であろう。

MVのように多くの人が集まったのではと予想ができる。

 

つまり初回盤Aと初回盤Bの主人公はサイレントマジョリティーで集まった複数人の中の2人をピックアップして、通常盤の物語へたどり着くまでの物語なのではないだろうか。

そして通常盤はサイレントマジョリティーで集まった多くの若者たちの物語と考察できる。

 

アルバムを聴いたリスナーも主人公

 

通常盤の最後の曲は”月曜日の朝、スカートを切られた”である。

通常盤の考察でも述べた通り、これは「次はアルバムを聴いたあなたがサイレントマジョリティーを歌う番だ」というメッセージではと述べた。

 

初回盤Aと初回盤Bでは違う主人公が違う物語をたどっていくが、渋谷に集まり、サイレントマジョリティーを歌い、W-KEYAKIZAKAの詩までの物語をたどっていく。

つまり、通常版では”月曜日の朝、スカートを切られた”で終わっているということは、その先の物語はアルバムを聴いたリスナーが作ってほしいということかもしれない。

 

ここまでのことは全て自分の妄想でもあるし、制作陣はそこまで考えていないかもしれないけど。

 

タイトルが皮肉

 

最後に、アルバムのタイトルについて触れてみようと思う。

 

『真っ白なものは汚したくなる』と言うタイトル。

このタイトルは皮肉が効いているなと思う。

 

欅坂46に関しては皮肉のオンパレードだと思っている。

サイレントマジョリティーも”大人たちに支配されるな”と歌いつつも、曲も衣装もダンスも何もかもを”大人”が用意して”大人”に言われた通りにメンバーは仕事をこなしている。

 

そして今作のタイトルでもある『真っ白なものは汚したくなる』だが、真っ白なものとは何で、汚したくなると思っているのは誰なのだろうか。

 

”真っ白なもの”とは欅坂46のメンバーで、”汚したくなる”と思っているのは欅坂46に関わっている”大人”なのではないだろうか。

そういった皮肉が込められているように感じてしまう部分がほかのAKBグループや乃木坂と違う面白さとも感じる。

 

しかし、その”汚される”こともメンバー本人も望んでいることかもしれない。

大人の操り人形で真っ白な自分たちが汚されているとしても、なりたかったアイドルになって、それもトップクラスの人気と知名度になっている。

それは”大人”がいたからでもある。

 

サイレントマジョリティーでは”君は君らしく生きていく自由があるんだ”と歌っている。

大人に操られて汚されることで自分のやりたいことやなりたい姿になれているのならば、それはそれで自分らしく生きていくことにもなるのかもしれない。

 

欅坂46の1stアルバムはただのアイドルのアルバムではなく、様々な角度から楽しませてくれる。

通常盤に関しては時系列に今まで発表した曲を並べているだけでもあるが、そう感じさせてしまうことが、このアルバムの凄みかもしれない。