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【レビュー・書評】クリープハイプ・尾崎世界観『苦汁100%』に志村正彦の日記と共通点を感じる。感想とネタバレ

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クリープハイプの魅力

クリープハイプは、今の日本の音楽シーンで少しだけ異質な存在だと思っている。

個性的なボーカルの声とギターのハーモニーが心地よい演奏。

そして、キャッチーなメロディ。

CDはそれなりに売れているし、評価もされている。

ドラマや映画、CMのタイアップもたくさんある。

 

www.ongakunojouhou.com

 

でも、どことなくアングラな雰囲気もあったり、一部には過激な表現や内容を隠喩している歌詞もあったり、ストレートに子どもには聴かせられない歌詞もあったりする。

 

でも、テレビの歌番組に出ても違和感ないし、実際J-POPを聴く人たちにもファンがいる。

 

そんな不思議な魅力を持つクリープハイプ。

 そのフロントマンである尾崎世界観がエッセイ集を出版した。

『苦汁100%』というタイトル。

 

 

今回、そのエッセイ集の書評をしてみようかと思う。

 

作家としても才能のある尾崎世界観

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『苦汁100%』は尾崎世界観にとって、初めての本の出版ではない。

2016年には『祐介』という小説を出版している。

 

 

 『祐介』はアルバイトをしながらバンド活動をしているバンドマンの話。

決して明るい話でもないし、かといってそんなに暗い話でもない。

笑える部分もあったりはする。

 

話の内容は泥臭いのに、どことなく主人公の感情は冷めているような、言葉の表現も乾いているような不思議な感じ。

人気バンドのボーカルが書いたということは関係なく、ファン以外でも読んでいて小説の世界観に入り込んでしまうような小説。

読んでいると主人公に感情移入してしまい、胸が苦しくなるような、モヤモヤするような小説。

これは半自伝的な小説らしいが、本当にこんな経験してたら怖すぎるので、”半”自伝的ということなのだろう。

 

この作品は他の作家には書けないような、尾崎世界観だからかけるような表現や物語で、そこに面白みを感じる。

 人気バンドのボーカルが書いたタレント本ではなく、一人の作家が書いた小説として評価して良い作品だと思う。

 

それに対して、今回発売された『苦汁100%』

この作品には『祐介』のような内容や言葉の表現、完成度を求めてはいけない作品に感じた。

はっきり言って、ファン以外に読む価値があるのか疑問な作品だ。

 

エッセイというよりも”ただの日記”

この本、エッセイというよりも日記です。

なんの変哲もない、ただの日記。

今日はこんなことがあったとか、今日は何をしたかっていうことが書いてあるだけの日記。

本当に、人の書いた日記をただ読んでいるような感覚。

クロノスというラジオ番組に『苦汁100%』の宣伝で尾崎世界観がゲスト出演していたが、その際も「ただの日記なので、どうおすすめしていいか・・・・・・」と本人が悩んでいたぐらいに日記だ。

 

ミュージシャンはこういったエッセイを出版することがある。

例えば、RADWIMPSのフロントマンである、野田洋次郎。

彼も日記形式のエッセイ集を出版していた。

『ラリルレ論』という作品。

 

 

この作品は日記というよりもエッセイ集だった。

言葉の表現も野田洋次郎の書く歌詞のように印象的な表現で、内容もその日にあった出来事を考察したり、感情を吐露したりと、エッセイとして面白さのある作品だった。

 

尾崎世界観も野田洋次郎と同様、言葉の表現が独特で、普段感じている感情などを、どのようにエッセイとして表現するか気になる人もいるだろう。

尾崎世界観のエッセイ集が発売されたと聞いて、『ラリルレ論』のような作品を期待する人もいたと思う。

しかし、そのような期待をすると、完全に肩透かしをくらってしまう。

 

日記だからこその生々しさ

 しかし、ただの日記だからこその面白さもあったりする。

エッセイの場合は人に読ませることが前提だろうが、日記の場合は人に読ませることは前提としてない。(こうやって出版することで読ませることにはなるが)

だからこその、日記の面白さもあるのだ。

 

内容に生々しい部分が多い。

上手くいかなかったこと、悩んでいること、不安なことなどがごまかすことなく書かれている。

 

ライブのリハーサルが上手く行かなかったこと

ライブで盛り上がるか不安になったこと

ナレーションをやっているハイ・ポールの台本が薄くなったこと

レコーディングやライブで喉の調子が悪くて声がでなかったこと

 

例えば上記のようなことが、まったく誤魔化すことなく、ストーレートにその時の感情が書かれている。

本来ならばファンに伝えなくてもいいことかもしれないようなことが書かれている。

それも当然だ。

だって、日記なのだから。

 

フジファブリック・志村正彦の日記も生々しい

 

フジファブリックのフロントマンだった、2009年に亡くなった志村正彦も『東京、音楽、ロックンロール」という自身の日記を本として出版していた。

 

フジファブリックに関しては、何度か記事にしたことがある。

 

www.ongakunojouhou.com

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『東京、音楽、ロックンロール』も『苦汁100%』と同様のただの日記だ。

しかし、この作品も”ただの日記”だからこその生々しさがあった。

 

体調が悪くて体重が40キロ台になりそう

バンドを辞めたいと思っていたこと

医者に仕事を休まないと数年後に死んでしまうと言われたということ

ポリープの手術のこと

スランプの時期があったこと

 

こういったことが生々しく書いてある。

志村正彦も歌詞では独特な表現を使う、才能あるアーティストだった。

エッセイとして読むと、志村正彦だったらもっと面白い表現や個性的な表現を使わないのかなと思ってしまうかもしれない。

しかし、これは日記だ。

だからこそ、これほど生々しい内容になっていなかったかもしれない。

 

ファン以外は読んでたのしめるのか?

自分はクリープハイプのファンだからこそ、読んでいて、それなりに楽しめた。

しかし、『祐介』と違いクリープハイプや尾崎世界観のことを知らなかったり、ファンでない人が読んだとして楽しめるかというと疑問は感じる。

エッセイでなくて日記だから。

興味のない人の日記を読んで楽しめるかというと、楽しめないと思う。

 

しかし、内容が生々しい。

知らない人や興味のない人でも、読んでいくうちに、バンドマンの苦悩、ソングライターとしての苦悩の部分が気になってくるかもしれない。

これほど生々しい日記を本として出版するミュージシャンは少ないだろうから。

 

ファンであれば、その生々しい部分を知り、よりクリープハイプのことが好きになり、そうでない人は、クリープハイプに興味をもつきっかけになる本かもしれない。

 

でも、おすすめできるかというと、ファンやクリープハイプに興味を持っている人以外にはすすめにくい本かなとは思う。

逆にファンの人や、少しでもクリープハイプや尾崎世界観に興味のある人には読んでもらいたい本だ。

 

実際に読んでみて、”日記の生々しさ”を感じてほしい。